vol.2


 「どうせ私の事好きじゃないんでしょ!」
私はそう言って、手に持っていた紙袋を投げつけた。
奴は何も言わない。
中に入っていた文庫本とCDががしゃりと外に出た。
さっきまで奴の事を睨んでいた目は、今は奴の足元に向けられているから、ヒビの入ったCDケースと
水溜りに浸かって下の方が少しずつふやけていく文庫本が見えた。
昨日は土砂降りだった。
今日は憎みたくなるくらいの晴天だけど。
どれくらい、
お互い言葉を発しなかったんだろう。
きっと、私達の事は街行く人達からじろじろ見られて、軽い話題にでもされてるんだろうって思って
た。
勝手に想像して、勝手に言ってろ、って感じだった。
その時誰かの携帯が歌った。
思わず顔を向ける。電話に出てから急にきょろきょろ辺りを見始めた女性がいた。
私くらいの歳だろうか。
何だかふわふわしてる子でかわいい。
全身から優しさが滲みでてるような子だった。
私とは正反対だな。
あの子は、私みたく彼氏に言葉吐き捨てて物ぶつけたりなんて事、しないんだろうな。
そんな事思ってたら、その子の動きが止まった。
何かを見てる。何だろう。
そして携帯を閉じて走り出した。
あぁ、こんな人ごみの中走ったら危な…
っと私は目で追って、ちょっと切なくなった。
…何だ、幸せそうじゃん。
つい、じっと見てしまった。
その子が飛び込んだ先にその子より全然大きな男の人が立っていて、そしてふんわり包み込むのを。
別にその後もただ抱き合ったままだったけれど、もうこれ以上見てるのも悪い気がして、目をそらし
た。
そしたら、その先には私の手によって投げ出された物を、ゆっくり拾う奴の姿があった。
「…ぁ。」
「…これ、気に入ってたんだけど。」
ケースについた汚れをはたきながら、奴が言った。
「なっ…。」
久々に出した言葉がそれですか?!私のさっき言った言葉は何処言っちゃったわけ?
私は急に引き戻された感覚になった。
「何それっ。むかつくっ。あーホントむかつくんですけどっ!」
私は真っ赤な顔で叫んだ。
奴は呆れた顔で言った。
「あのねぇ、わかる?CDケース割られて文庫本も湿ってぐちゃぐちゃで、それが嫌ならまた同じの買
えばいいじゃんってか?」
「…は?」
いっ…みわかんないんだけど。私の言葉なんて聞こえてないように、更に奴は続けた。
「このCDも文庫本も何回も聞いて、読んで、…あー何て言えば良いんだろうな。」
何何何。この人何言ってんの?だんだんほとぼりも冷めてきた。
「あーっと、。」
さっきから上を向いたり下を向いたり。一体どうしちゃったってゆうんだろう。
「つまりだ、此処にお前と顔も体も性格もそっくりな子を連れてきてもだね。それはお前じゃぁない
んです。」
「??そりゃそうでしょ。。」
「だからー…。それと同じようにこのCDも文庫本も一緒で、『この』CDと文庫本が良いわけなんです。
使い慣れたというか…。お気に入りの楽器みたいな感じで…。」
私の頭の中にはさっきから疑問符しか浮かばない。
「…っで?」
すーごく、何か言いたい事があるんだろうけど、私には良くわからなかった。
大体いつも例えが悪すぎるんだよ…。と、溜息混じりに思ってみる。
「お前が何をどう勘違いしてさっきみたいな事言ったのかわかんないんだけどさ、」
ちょっと真剣な顔になった奴を見て、ぁ、こういう所好きだったな、なんて思ってしまう。
「俺はお前じゃなきゃダメなんよ?」
頭の中が真っ白になった。何言ってるのかよくわからなかった。
いや、わかっていて、でも、信じられなくて、わかろうとしなかった。
「んんん???!!!」
「このCDも、文庫本も、大事だから他の奴には貸してないの。何てゆうんだろうか。良い物は皆にも
知ってもらいたいんだけど、粗末に扱われるのが嫌なん…です、よ。」
ようやく自分の言いたい事がまとまってきたみたいで、私の前にはずっと、こっちを向いた奴の顔が
ある。
「…俺ってこう、自分だけが知ってる優越感?、みたいなそういうの好んでる部分があるようで、。
ぁー、あんま言いたくないんですけど、ね、」
「…何?」
「お前もね、俺が見つけ出した原石というか、いや、ホントごめん。馬鹿みたいなんだけどさ。皆気
付いてないのが不思議なくらい、で?ん。ぁー…よくわかんね。」
またあっちを見たりこっちを見たり、うろうろしたりし始めてしまった。
「俺の前でどんどん輝いていくお前がね、やばいくらい大事なんです、よ。」
それを聞いた途端私の顔は多分、また真っ赤になった。
「は、ぁ…あー?大事だったら、え、ぁ、だって、さ!」
馬鹿みたいだ。馬鹿みたいだ。悔しい。悔しい、けど、嬉しくて、ふやけた顔になってしまう。
「独り占めしたい、とか思っちゃってます。
俺だけがこの可愛さ知ってれば良い、とか思っちゃってます。
むしろ他の人に好きになってもらいたくないです。他の人を好きになってもらいたくもないです。」
あぁあぁ、それを聞く度に私の体はどんどん力が抜けて、恥ずかしくて聞いてられなくて、おもわず
耳を塞いでぺたりと座り込んでしまった。
何か言いたくても声にならなかった。
「おわっ。」
濡れた地面に突然座り込んでしまった私にびっくりした奴は、私の手をひいて起こそうとしてくれた。
でも全然力が入らなくてへにゃへにゃな私を立ち上がらせるのは無理だと判断した奴は、しゃがみこ
んで、下を向きながら、…っぷーと息を1つ吐き出してから言った。
「世界中で一番愛しちゃってますけど、何か?」
その言葉に私は思わず笑ってしまい、そしてそのままぽろぽろ泣き出してしまった。
慌てふためいている奴に、
「嬉しくて出る涙ってホントにあるんだね。。」
そうぽつりと呟いた。
「CDとか、ごめんね?」
「ん。ぁー良いよ、別に。聞けるし読めるし。」
「あ、あのねぇっ私気に入った曲あったよっ。」
「お、どれどれ?じゃぁさー一緒に指差す?」
「えー違ったらちょっとショックじゃない?」
「…何言ってんだか。ほら、せーのっ。」
そう言って指差した私達の先にあったのは、
「「限界破裂」」
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